マラリアの画像問題をまとめました。
第48回~第67回の過去問20年分で問題数は9問でした!
少なっ!…ただし、マラリアの出題は近年のほうが圧倒的に多いのです。
まずは、過去20年間で出題されたマラリアの画像問題の統計グラフをご覧ください。
出題回数最多は三日熱マラリアの4回で、次いで熱帯熱マラリアが3回出題されています。
※ 第67回で出題されているものに関しては輪状体である事は間違いないのですが、種の同定までできるような画質ではない為、上記の表には入れていません。
ヒトに感染するマラリアは全部で5種類ですが、国家試験の画像問題として出題されているものにはかなり偏りがあると言えます。
模試や学校の試験問題で出題されたマラリアの画像問題を見ているからか、もっといろいろな種類が出題されていると思いがちです。しかし、実際の国家試験での出題はたったの3種類で過去20年間の時点ではほぼ三日熱マラリア or 熱帯熱マラリアです。現時点では2択のようなレベルですね…。
■ マラリアの画像問題で問われること
ズバリ!
- マラリア原虫の形態を含めた種類
- 考えられる検査結果
- マラリアに関する基本的な知識
この3点です!
ヒトに感染するマラリア原虫の種類は以下の5種類で、すべてハマダラカによって媒介される4類感染症です。臨床所見・患者背景として発熱と渡航歴があります。
- 三日熱マラリア
- 熱帯熱マラリア
- 四日熱マラリア
- 卵形マラリア
- サルマラリア ( 二日熱マラリア )
これらの形態 ( 輪状体 / 栄養体 / 分裂体 / 生殖母体 ) を含めて問う問題もあるので、それぞれの形態も覚えておく必要があります。
え?難しい!?
実際の臨床ではマラリアの同定は教科書どおりにはいかないのでしょうけど、皆さんが受けるのは国家試験です。当然、教科書どおりの形態です。つまり同定に苦慮するような画像は出題されないのです。基本的な特徴さえ押さえておけば非常に簡単な問題です。
検査結果を問う問題に関しては [ 第61回 午後 問8 ] で出題されていますが、これに関しては記事の後半で考えられる検査結果をまとめたので軽く目を通しておいて下さい。
■ 実際の問題と解説
それでは、実際の問題と解説を見ていきましょう!
第48回 午前 問31 熱帯熱マラリア
【 問題文 】アフリカを数か月旅行し , 帰国後発熱を訴えて来院した. 末梢血のギムザ染色薄層塗抹標本を別に示す. 正しいのはどれか.
【 選択肢 】
- 熱帯熱マラリア原虫の輪状体
- 四日熱マラリア原虫のアメーバ体
- 卵形マラリア原虫のアメーバ体
- 熱帯熱マラリア原虫の雄性生殖母体
- 三日熱マラリア原虫の輪状体
【 解答 】1
解説 ▼
赤血球にリングの形状をした原虫が2個感染しているのが分かります。”輪状体”という形態はどのマラリアにおいてもその名のとおり”リング=輪っか”です。したがって、被感染赤血球に”リング=輪っか”があればそれは”輪状体”です。この時点で選択肢は1 or 5に絞られます。
この画像では”2個”の輪状体が感染しています。1つの赤血球に複数の原虫が感染するのは熱帯熱マラリアの特徴です。この2点から、この問題の解答は熱帯熱マラリアの輪状体となります。
第52回 午後 問51 三日熱マラリア
【 問題文 】34歳の男性. インドに2週間滞在し帰国後 , 発熱を認め来院. 末梢血検査で赤血球数273万 / µl , ヘモグロビン9.7 g / dl , ヘマトクリット29% , 白血球数18200 / µl , 血小板数1.8万 / µl . 末梢血ライト・ギムザ染色標本を別に示す. 考えられるのはどれか.
【 選択肢 】
- 血栓性血小板減少性紫斑病
- 溶血性尿毒症症候群
- マラリア
- フィラリア症
- アメーバ症
【 解答 】3
解説 ▼
この問題は患者背景および検査結果と非常に分かりづらい画像 ( 何故こんなにも好酸性に鮮やかに染まっているのか…? ) から疾患名を考察するという問題ですが、一目瞭然でマラリア!となるような画像ではないので、問題文から選択肢の疾患を消去法でマラリアに辿り着くというような感じで解くしかないです。
マラリア罹患の重要な患者背景に渡航歴と発熱が挙げられます。形態は周囲の赤血球よりも被感染赤血球が大きいことから三日熱マラリアのか卵形マラリアであると推測されますが、卵形マラリアはその名のとおり卵形であるため、三日熱マラリア ( 栄養型 ) であると考えられます。
第58回 午後 問9 三日熱マラリア
【 問題文 】マラリア患者の血液塗抹Giemsa染色標本を別に示す. 考えられるのはどれか.
【 選択肢 】
- 卵形マラリア原虫の分裂体
- 三日熱マラリア原虫の栄養体
- 三日熱マラリア原虫の分裂体
- 四日熱マラリア原虫の栄養体
- 熱帯熱マラリア原虫の分裂体
【 解答 】2
解説 ▼
この問題の画像も被感染赤血球が周囲の赤血球と比較して大きいことが分かります。したがって、三日熱マラリアか卵形マラリアが推測されますが、選択肢の卵形マラリアは”分裂体”であるため除外できます。
熱帯熱マラリア以外のマラリアは末梢血に分裂体がみられることがありますが、分裂体は特徴的な形態であり、この問題の画像の形態とは異なります ( 次の問題が三日熱マラリアの分裂体です ) 。
第59回 午前 問10 三日熱マラリア
【 問題文 】三日熱マラリア患者の末梢血塗抹Wright-Giemsa染色標本を別に示す. 正しいのはどれか.
【 選択肢 】
- 輪状体
- 分裂体
- アメーバ体
- 雌性生殖母体
- 雄性生殖母体
【 解答 】2
解説 ▼
THE・分裂体です。この問題は問題文に三日熱マラリアと書いてありますね。特に解説することもないです。
第60回 午前 問9 熱帯熱マラリア
【 問題文 】末梢血のGiemsa染色標本を別に示す. 考えられるのはどれか.
【 選択肢 】
- 熱帯熱マラリア
- 三日熱マラリア
- 四日熱マラリア
- 卵形マラリア
- 鎌状赤血球症
【 解答 】1
解説 ▼
熟れすぎたバナナです。
これは熱帯熱マラリアの生殖母体なのですが、バナナのような形態が特徴的で、このような形状を示すのは熱帯熱マラリアのみです。この形態が熱帯熱マラリアの生殖母体の特徴であるという事を覚えていた当時の受験者にとってはサービス問題だったでしょうね。しかし、一度出題されている ( 過去問になった ) という事は [ バナナ=熱帯熱マラリアの生殖母体 ] というのはもう常識です。
第61回 午後 問8 熱帯熱マラリア
【 問題文 】22 歳の男性. 発熱と意識障害とを主訴に救急外来を受診した. 5 日前から頭痛 , 発熱および全身倦怠感があった. 1 週前まで約 3 か月のアフリカへの渡航歴がある. 末梢血のGiemsa染色薄層塗抹標本を別に示す. この患者の血液検査所見で考えられるのはどれか. 2 つ選べ.
【 選択肢 】
- 血小板数増加
- ヘモグロビン低下
- クレアチニン上昇
- ハプトグロビン上昇
- コリンエステラーゼ上昇
【 解答 】2・3
解説 ▼
この問題は患者がマラリアに罹患しているということを前提に考えられる検査結果を問う問題で、発展的な問題であると言えます。
このマラリアは2個の原虫が感染している赤血球がみられることから熱帯熱マラリアであるということが推測できます。熱帯熱マラリアは悪性マラリアに分類されるように他のマラリアよりも重症化する頻度が高いです。
マラリアでは溶血性貧血がみられるため、ヘモグロビンは低下し、腎機能障害に伴う乏尿などによりクレアチニンやBUNは排泄量が減って血中では上昇します。マラリア感染で考えられる検査結果に関しては後述します。
第62回 午前 問7 三日熱マラリア
【 問題文 】19 歳の女性. 5日前から1日おきの周期的な発熱を認め渡航者外来を受診した. 末梢血のGiemsa 染色薄層塗抹標本を別に示す. この患者が罹患した感染症はどれか.
【 選択肢 】
- 熱帯熱マラリア
- 三日熱マラリア
- 四日熱マラリア
- 卵形マラリア
- サルマラリア
【 解答 】2
解説 ▼
[ 第58回 午後 問9 ] の画像によく似た形態のマラリアです。つまり三日熱マラリアの栄養体です。
三日熱マラリアの発熱周期は48時間で、問題文のとおりつまり”1日おき”なのですが、問題文の発熱周期から考察するよりも画像で即答できるようにしましょう。画像問題をモノにするためにはやはり形態を覚えることが重要です。形態さえ押さえておけば問題文などなくても正答できます。
この問題で初めてサルマラリア ( 選択肢として ) が出てきました。この問題を見るまでは存在すら知らなかった人も多いはずです。
第63回 午後 問6 四日熱マラリア
【 問題文 】海外から帰国後 , 発熱を主訴として外来を受診した患者の末梢血Giemsa染色薄層塗抹標本を別に示す. 診断として正しいのはどれか.
【 選択肢 】
- 住血吸虫症
- フィラリア症
- 熱帯熱マラリア
- 四日熱マラリア
- トリパノソーマ症
【 解答 】4
解説 ▼
被感染赤血球にバンドのようなものがみられますが、これは四日熱マラリアの栄養体でみられる帯状体 ( バンドフォーム ) です。栄養体でこのようなバンドがみられるのは四日熱マラリアとサルマラリア ( 二日熱マラリア ) です。
選択肢にサルマラリアはないので四日熱マラリアであると考えることができます。国家試験の問題はどちらとも捉えられるような問題は出題されないので、帯状体の画像を示して選択肢に四日熱マラリアとサルマラリアが混在することはまずありえないでしょう。また、サルマラリア はまれなマラリアであるため、国家試験の画像問題の”正答”としてはまだまだ出題されないと考えます。
第67回 午前 問6 ???マラリア 輪状体
【 問題文 】成人男性がアフリカから帰国後に発熱した. 末梢血抹厚層塗抹のGiemsa染色標本を別に示す. この感染症について正しいのはどれか.
【 選択肢 】
- 自然治癒する
- 治療薬はない
- ツェツェバエが媒介する
- 感染初期に肝臓で増殖する
- 細胞内寄生性細菌感染症である
【 解答 】4
解説 ▼
輪状体がみられますが、厚層塗抹標本でかつ画像も粗いため、種の同定まではできません。問題自体も種の同定に関するものではなく、マラリア感染症に関する基礎的な知識を問うものですね。
マラリアは抗マラリア薬 ( メフロキン等 ) で治療できるが、自然治癒は期待できず、ハマダラカにより媒介されます。ツェツェバエが媒介するのはアフリカ睡眠病ですね。
※ 治療薬はいくつかありますが、臨床検査技師国家試験レベルでマラリアの薬剤名まで覚える必要はなと思います。
また、マラリアは細菌 ( 原核生物 ) 感染症ではなく、原虫 ( 真核生物 ) 感染症です。
マラリアはハマダラカの体内で生殖母体が受精し、やがてオーシストが形成され、そこから出現したスポロゾイトが蚊の唾液腺から人体へ侵入することにより感染が成立します。その後、スポロゾイトはまず肝臓に入り、分裂体を経てメロゾイトとなり ( 赤血球外発育 ) 、これが赤血球に侵入し、輪状体 → アメーバ体 → 再び分裂体 → メロゾイト ( 赤血球内発育 ) → 一部が生殖母体になるというサイクルで増殖します。
■ マラリア感染で考えられる検査結果
マラリアの画像問題で問われることは2パターンあると言いましたが、[ 第61回 午後 問8 ] が出題されるまでは単にマラリア原虫の種類および形態を問うものしか出題されていませんでした。しかし、[ 第61回 午後 問8 ] で検査結果を問う問題が出題された ( 今後もこのパターンで出題される可能性がある ) ため、マラリア感染で考えられる検査結果についても表にしてザックリ触れておきます。
※ 病初期や感染原虫数が少ない場合ではこれらの検査結果がみられるとは限らない
|
基準値 |
マラリア感染時 |
AST |
5~25 U / l |
高値 |
ALT |
3~30 U / l |
高値 |
LD |
60~120 U / l |
高値 |
BUN:尿素窒素 |
8~20 mg / dl |
高値 |
Cr:クレアチニン |
男性:0.7~1.1 mg / dl 女性:0.5~0.9 mg / dl |
高値 |
CRP:C反応性蛋白 |
0.3 mg / dl以下 |
高値 |
RBC:赤血球 |
女性:380~500万個 / µl 男性:440~560万個 / µl |
低値 |
Hb:ヘモグロビン |
女性:11.0~15.0 g / dl 男性:13.0~18.0 g / dl |
低値 |
Ht:ヘマトクリット |
女性:35~45% 男性:40~50% |
低値 |
WBC:白血球 |
3000~9000個 / µl |
変化なし~高値 |
PLT:血小板 |
15~35万個 / µl |
低値 ( 著減 ) |
間接ビリルビン |
0.2~1.0 mg / dl |
高値 |
総コレステロール |
120~220 mg / dl |
低値 |
アルブミン |
4~5.5 g / dl |
低値 |
正直、これを全部覚える必要はないです。マラリアでは溶血性貧血がみられるので、貧血関連の項目と血小板が減少することを頭に入れておけば問題ないかと思います。
■ まとめ
既出のマラリアの画像を改めてまとめてみました。
▼ 【 三日熱マラリア:栄養体 】
▼ 【 三日熱マラリア:分裂体 】
▼ 【 熱帯熱マラリア:輪状体 】
▼ 【 ???マラリア:輪状体 】
▼ 【 熱帯熱マラリア:生殖母体 】
▼ 【 四日熱マラリア:帯状体 】
それぞれのマラリアの形態に関してはもう一度、教科書を見て確認しておきましょう。既出のマラリアの形態に関してはこの記事↑のとおりですが、形態的に特徴のある卵形マラリアの栄養体は出題されていないので、確認して出題されても対応できるようにしておきましょう。
目次の出題回を見ていただくと分かるとおり、マラリアの画像問題は近年のほうが多く出題されています。
表は横にスクロールできます ▶
発熱周期 |
赤血球に感染する原虫数 |
特徴 |
|
三日熱マラリア |
48時間 |
1個まれに2個 |
・被感染赤血球が大きくなる ・輪状体 / 栄養体 / 分裂体 / 生殖母体すべてが末梢血に出現する ・輪状体にシェフナー斑点がみられる |
熱帯熱マラリア |
不規則 |
2個以上の感染がみられる |
・感染原虫数が多い ・半月形の生殖母体が出現する ・末梢血では通常 , 輪状体および生殖母体のみが出現する |
四日熱マラリア |
72時間 |
2個以上の感染はまれ |
・栄養体の感染で帯状体がみられる ・輪状体 / 栄養体 / 分裂体 / 生殖母体すべてが末梢血に出現する |
卵形マラリア |
48時間 |
2個以上の感染はまれ |
・被感染赤血球が大きくなる( 卵形 ) ・栄養体の感染で被感染赤血球の一端がちぎれたような形態となる ・輪状体 / 栄養体 / 分裂体 / 生殖母体すべてが末梢血に出現する ・輪状体にシェフナー斑点がみられる |
サルマラリア ( 二日熱マラリア ) |
24時間 |
1個または2個 |
・栄養体の感染で帯状体がみられる ・輪状体 / 栄養体 / 分裂体/生殖母体すべてが末梢血に出現する |
表の三日熱マラリアに関してですが、1個当たりの赤血球に感染する原虫数に”1個まれに2個”と書きましたが、基本的に熱帯熱マラリアとサルマラリア以外は1個と思っておいてOKです。
形態で必ず覚えておくべきことは
- 三日熱マラリアと卵形マラリアは被感染赤血球が周囲の赤血球よりも大きくなる ( 卵形マラリアは”卵形”であるため鑑別は容易 )
- 熱帯熱マラリアは1個の赤血球に複数の原虫が感染し、生殖母体がバナナ状になる
- 四日熱マラリアの栄養体は帯状体 ( バンドフォーム ) がみられる
- 卵形マラリアは輪状体および栄養体が”卵形”であり、栄養型では赤血球の一端がちぎれたような形態となる
サルマラリアは表に示したとおり、熱帯熱マラリア の特徴 ( 複数の原虫が感染 ) と四日熱マラリアの特徴 ( 帯状体が出現 ) を併せ持っています。この微妙な立ち位置?と症例数の少なさから国家試験の画像問題の ”正答”としては出題されないと思っています。個人的にはですが…
もし、サルマラリアが画像問題の”正答”として出題されることがあったとしても…
- 1個の赤血球に複数の原虫が感染している画像 ⇒ 選択肢に熱帯熱マラリアがない
- 帯状体がみられる画像 ⇒ 選択肢に四日熱マラリアがない
それぞれ類似するマラリアは選択肢から必ず除外されるはずであり、逆も然りです。つまり、1個の赤血球に複数の原虫が感染している画像問題の正答が”熱帯熱マラリア”なら選択肢にサルマラリアがあっては国家試験の問題としては不適切という事です。
学生がリアルタイムで使っている教科書にサルマラリアの画像が載っているのかは分かりませんが、ネットで検索すればいくらでも画像は出てきます。
興味のある方は外部リンクを張っておくので見てみて下さい。
( もし、皆さんの教科書にサルマラリアの形態が載っていないのであれば、やはり画像としては出題されないと思いますが… )
百聞は一見に如かずです。しつこいですが、それぞれの形態に関してはこの記事で覚えたことを踏まえてもう一度、教科書で画像を見ておきましょう!
マラリアとランブル鞭毛虫が同じ原虫って…原虫のバラエティの豊富さよ…
スマホ ( i Phone ) で”マラリア”を変換すると蚊の絵文字が出るんですけど!!皆さんのスマホもそうですよね?!
♦ その他のまとめ記事はこちら